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多くの経営者の健康を支えてきたトレーナーの先駆者が説く「健康経営は“トップの意識改革”から」


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2024年4月から「健康日本21(第三次)」のスタートも控えており、健康経営はいよいよ多くの企業にとって待ったなしのテーマになっています。とはいえ、特に中小企業においては「何から始めればいいのか……」とお悩みの経営者や、「会社からやれ、と言われたんだけど忙しくて……」と、健康経営の旗振り役に指名されてお困りの方もいるのではないでしょうか。


そこで、日本におけるパーソナルトレーナーの草分けとして30年も前から企業の健康づくりの支援に携わり、現在も愛知県を中心に多くの企業の健康経営アドバイザーとして活動している、「株式会社ALIVE」代表の鈴木陽一氏に、実際に健康経営に取り組む企業の事例や、健康経営に取り組むことで社内に生まれた変化などを聞きました。




<目次>


 
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<鈴木陽一氏のプロフィール> 1990年代から健康運動指導士として、トヨタグループの健康保険組合に勤務後、1998年に独立し、株式会社ALIVEを設立。総合格闘技道場・パーソナルトレーニングジム・健康作り事業、の三本を軸に、名古屋で20年以上活動を続けている。

2020年から健康経営アドバイザーとして活動を本格化。さらに興和株式会社の運動習慣継続プログラムのアドバイザーに就任。健康経営優良法人認定やブライト500認定のサポート経験の実績を豊富に有しており、企業個々の悩みに寄り添う健康経営の指南役として信頼が厚い。

 


「健康」が国家政策になった80年代


――「総合格闘技道場ALIVE」でプロ格闘家を育成されているとあって、先生のオーラも格闘家そのものですね。


ありがとうございます(笑)。

選手の試合ではセコンドについているから、健康経営アドバイザーとして各企業を周っていると、格闘技ファンの社員から「鈴木先生、昨日の試合、テレビで観てましたよ!」と声をかけていただきます。

いまも若い選手に交じって、ガンガンスパークリングしてますよ。


――いま「健康経営アドバイザー」のお話がありましたが、そもそも先生が企業の健康経営に携わるようになったのは、何がきっかけだったんですか?


私が駆け出しのトレーナーだった1980年代は、1980年に日本ではじめてスポーツクラブが誕生し、爆発的に増加していた時代です。

同時に日本がバブル景気に向かう中で日本人の生活習慣も大きく変化し、成人病(生活習慣病)が増えていました。



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※鈴木氏は今回「実績と信頼の厚い健康経営コンサルタント」としてインタビューに登場。一方で、世界に通用するプロ格闘家を輩出し、多くの道場生を抱える総合格闘技道場ALIVE(アライブ)の経営者兼トレーナーといった、多彩な顔を持つ。



成人病を予防する取り組みの一環として、1988年に厚生省(現・厚生労働省)が創設したのが「健康運動指導士」という資格です。

健康運動指導士とは、保健医療関係者と連携しながら、運動プログラムの作成と指導計画の調整などを行う専門資格で、私は1期生として資格を取得しました。


――80年代は、健康がビジネスになると同時に、国家政策にもなった時代なんですね。


続いて1988年に厚生省が開始したのが「トータル・ヘルスプロモーション・プラン(THP)」です。

THPとは働く人の心身の健康づくりを目指して、企業が計画の作成や健康指導の実施などに取り組む施策です。健康運動指導士、産業医、看護師、心理相談員などを社内に配置する企業に対して、国が助成金を出していました。


そのTHPを導入した企業のひとつがトヨタグループ。そして、トヨタに派遣される健康運動指導士として選抜されたのが私です。1989年から6年間、同社の健康支援に携わりました。


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すでに30年前には“健康経営”があった?


――企業を対象にした健康づくりの取り組みが、80年代にはすでに行われていて、そこに先生も携わっていたのですね。当時はトヨタで、どんな健康指導を行っていたんですか?


いわゆるメタボリックシンドローム対策です。

体脂肪率などに異常値が見られる社員に対して特定指導を行うのですが、私は健康運動指導士として、個々の社員ごとにトレーニングメニューを作成し、個別指導していました。

30年前に「パーソナルトレーニング」の言葉はなかったけれど、いま思い返すとその“はしり”ですね。


――トヨタでのTHPの取り組みは、言ってみれば「健康経営」そのものですね。


そうなんですよ! 私も5年ほど前にはじめて「健康経営」という言葉を耳にして、気になって政府の方針や施策をいろいろ調べてみたんです。

…なんだ、中身は30年前に自分がやっていたTHPと同じじゃないか、と(笑)。


かつて厚労省がTHPとして展開していた企業向けの健康づくり支援が、相手が企業だからと経産省に移行しただけなんですよね。

ならば、私がトヨタでやってきた経験や、これまでのパーソナルトレーナーとしての知見も生かせるな、と。


その後、私がパーソナルトレーナーを務める経営者の方々とも健康経営が話題になる機会が増えて、「うちの会社、手伝ってもらえませんか?」と声をかけられるようになりました。

そんな経緯で、いま6社の健康経営アドバイザーとして活動するに至っています。



健康づくり国策の歴史


健康経営に取り組めば企業は儲かる?


――その健康経営ですが、「健康経営」と聞くと「やらなきゃ……」と身構えてしまう企業が少なくないように思います。30年前から企業の健康づくりを支援してきた先生の立場から、企業が健康経営に取り組む意義をどうお考えですか?


前提として、なぜ国がここまで健康経営の旗を振っているのか、を説明しておきましょう。

言うまでもなく少子化と高齢者割合の増加、それに伴う医療費・介護費の増加が背景にあります。


75歳以上の後期高齢者になると医療費が1割負担に軽減される。つまり国の医療費が増えるんですが、戦後のベビーブーマーだった団塊の世代がいま、まさに、後期高齢者になっています。

国の社会保障関係費は必然的に増え続けており、2023年度一般会計予算では約37兆円。全体の32.2%を占めています。


――国家予算の3割超…あらためて、すごい数字ですね。


医療費・介護費の伸びを少しでも抑えるためにどうするか。それが、健康寿命の延伸です。医療費・介護費がかからない、元気な高齢者を増やしたいわけですね。


これまで国民の健康づくりは厚労省がずっと旗振りをしていましたが、大きな成果はなかなか挙げられませんでした。

ならば企業にアプローチしようと、途中で経産省が乗り出して「健康経営」という言葉が生まれました。


したがって健康経営とは、大きな位置づけとして社会保障関係費を抑制するための、国家政策なんですね。


――国家政策であるのはわかりました。でも、減らすべき数字が大きすぎて、多くの企業にとってはピンとこないかもしれません。


そうですよね(笑)。では、個々の企業レベルでどんな意義やメリットがあるか、をお話しします。


2011年、製薬会社のジョンソン・エンド・ジョンソンがレポートを発表しました。

同社がグループ世界250社、約11万4000人に健康教育プログラムを提供し、投資に対するリターンを試算したところ、「健康投資1ドルに対して、約3ドルの投資リターンの成果につながった」というのです。


つまり、健康経営の取り組みによって、従業員にプレゼンティーイズム(出社はしているけど不健康で生産性が低い状態)や、アブセンティーイズム(心身の病気などで出社できない状態)の解消や、ワークエンゲージメントの向上をもたらす。

結果として生産効率を高め、企業に利益となって還元される。

…つまり「儲かる」んです。


近年では就職活動にのぞむ学生も、企業の健康経営への取り組みを重視する傾向にある。

いまや採用の観点からも、健康経営への取り組みはもはや立派な経営戦略であるといえます。



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健康経営を始めるなら「トップの意識改革」から


――企業がいま健康経営に取り組むべき意義がわかりました。でも、健康経営に取り組んだことのない企業にとって、何から始めたらいいか戸惑うはずです。まずは、何から始めたらいいでしょうか?


まずは、一にも二にも経営者。リーダー層の意識改革です。トップが変わらないと、健康経営はなかなか進みません。


――トップの意識改革、ですか! 意外な答えでした。


私はパーソナルトレーナーとして、多くの経営者を指導していますから、彼らと話しているとそう断言できます。

体形もシュッとして、健康面に気を遣っている経営者の会社では、健康経営も大体うまくいっているんです。その逆は…言うのをやめましょう(笑)。


だから、企業の健康経営アドバイザーを私が務める際には、まず社長と面談して、社長の経営理念を聞くんです。

理念の中に、社員の健康や社会貢献に関する文言が入ってない場合は、その段階でアウト。経営理念から作り直してもらったケースもあります。



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――社会貢献、という言葉が出ましたが、社会貢献と健康経営って関係があるのでしょうか?


社会貢献を考えず、ひたすら目の前の利益ばかりを追い続けている会社を想像してみてください。

働く社員は、売上や利益目標を達成するために、早朝から夜遅くまで働く。忙しくて休憩時間もとれないから、お昼はカップラーメン。すると、必然的に体調が悪くなる。無理やり出社しても集中力や体力が持たない。プレゼンティーイズムに陥る。

結果、ワークエンゲージメントが下がる…。


――確かに。短期的な目先の利益を追求するのか、長期にわたって持続可能な経営を目指すのかで、社員の働き方は変わってきます。同時に、経営者の健康への意識の向け方も変わってきますよね。


そうなんです。だから、健康経営を実践するうえでは、まずは経営者がどういう経営を目指しているか。そして社員の働き方、健康、幸せについてどう考えているか、の確認から始まるんです。



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5年目にしてジムに通い始めたメタボ幹部社員


――健康経営を進めるうえで、まずトップの意識が大事だとわかりました。


もうひとつ挙げると、トップの次に変わらなければならないのは、40代、50代のマネジメント層です。理由は単純明快で、健康意識が低いからです。


――ズバリ言われると、なかなか耳が痛いですね……。


20代、30代の若手社員のほうが、美意識も高くファッションにも敏感だから、健康への意識も高いんですよ。

50代になっちゃうとお腹も出てきてしまって、健康経営を呼びかけても、どこかで「オレには関係ない」と思っている。


――「もう何年もすれば定年だし」と思っているかもしれませんね。


ところが、今後は定年延長もやむなしだから、そうも言えなくなってくるんですよ。

好むと好まざるとにかかわらず、企業は60歳を過ぎた社員を雇用し続けなければならない。特に、人口ボリュームの大きい団塊ジュニア世代の健康意識をいかに高め、生活習慣を改善させるかが、いま健康経営の新しい課題になっています。

とはいえ、長年にわたって形成された生活習慣を変えるのは簡単ではありません。


でも、私が健康経営アドバイザーを務めている企業の例ですが、まったく運動に関心がなかったメタボ体形の幹部社員が開始5年目にして、はじめてジムに通い始めたんですよ。社内に健康経営のムーブメントを少しずつ醸成できれば、時間はかかっても行動変容を起こせるんです。


健康経営は、一朝一夕に成果が出るものではありませんし、即効性の高い施策もありません。何よりも「継続」。地道な積み重ねに尽きるんです。



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後編では、鈴木陽一氏が実際に健康経営のコンサルティングに取り組む中から、企業が抱える個々の問題点にあわせ課題を解決していく貴重な実例を惜しみなく紹介。


あの会社の健康経営はどうして成果を挙げているの? キーワードは「現場」「インセンティブ」「少ない負担」

 

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